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2025.12.04 NEW
経済圏化の起爆剤!「ジョホール・シンガポール経済特別区」を徹底解説

2025年1月7日にマレーシアとシンガポールの両国政府が正式合意し、ついに始動となった共同経済特区「ジョホール・シンガポール経済特別区(JS-SEZ)」。国境を越えた経済統合によって、東南アジアの新たな成長エンジンとなることが期待されるビッグプロジェクトだけに、弊社のお客様にとっても関心の高いトピックと言えるでしょう。

投資企業に対するインセンティブ内容が固まり、少しずつ具体的な投資事例も明らかになり始めている中、今回はそれらを踏まえながらJS-SEZの概要や不動産市場への影響を解説していきたいと思います。

JS-SEZとは?

「JS-SEZ」は、マレーシア南部ジョホール州の約3,588㎢に及ぶエリアを対象に、マレーシアとシンガポールが共同で推進する経済特区です。隣接する両国間において、ヒトやモノが円滑に移動できる環境を整えると共に、積極的な投資誘致を図ることでシンガポールの機能をジョホールに拡張し、ひとつの経済圏として国境を越えた繁栄を目指す狙いがあります。

JS-SEZが進められる背景には、高コストや土地の確保が成長のネックとなっているシンガポールと、土地に余裕があり、コストも比較的安い一方で、企業誘致に課題を抱えているジョホール州の利害が一致した点があると考えられます。

なお、ジョホール州における大規模プロジェクトというと、現状ではマレーシアの国家プロジェクトとして2006年~2025年(予定)に行われた「イスカンダル計画」の方が有名かもしれません。ただ、イスカンダル計画はジャングルを切り開き、一から新たな都市を創り上げることが中心だったため、企業誘致の面ではあまり上手くいかなかったというのが正直なところです。

一方、JS-SEZはイスカンダル計画で整備されたインフラを基盤に、企業誘致にフォーカスを当てて進められるものとなっています。そういう意味ではJS-SEZは、イスカンダル計画で積み残した課題を、シンガポールという強力なパートナーと共に解決していくプロジェクトと言えるかもしれません。

JS-SEZの目標は?

JS-SEZは、より高付加価値な産業、高スキルな人材を重点的に誘致することを目指しています。具体的には、製造業、物流、食料安全保障、観光、エネルギー、デジタル経済、グリーン経済、金融、ビジネスサービス、教育、医療の11セクターが重点分野に定められています。

両国は当初5年間の目標として、50件の高付加価値プロジェクトの誘致と、約2万人の熟練雇用の創出を掲示。さらに、10年以内には累計100件の高付加価値プロジェクトの誘致を実現するとしています。

そのため、JS-SEZに進出する外資系企業には、より高い水準の最低賃金が設定される予定で、高等教育課程を修了しているマレーシア人の場合は月額3,500リンギ(約13万1,950円)以上、学位を取得しているマレーシア人の場合は同4,000リンギ(約15万800円)以上となる見通しです。

マレーシアの通常の最低賃金が1,700リンギ(約6万4,090円)、経済中心地であるクアラルンプールの月給中央値が3,469リンギ(約13万781円)であることを考えると、これが破格であることがよくわかります。ただ、シンガポールの月給中央値は5,500Sドル(約66万円)ですから、これでも格段に低コストと言えるでしょう。

JS-SEZの対象エリアは?

JS-SEZは、ジョホール州内の6自治体にまたがる、計約3,500㎢及ぶ9つの「フラッグシップ・ゾーン」が対象となります。各ゾーンは、それぞれの地理的な特性やインフラ環境に適した特定の産業を重点的に誘致し、競争・協力によって相乗効果を発揮する産業クラスターを形成する役割を担っています。

ジョホール・シンガポール経済特区のイメージ図

9つのゾーンと主な誘致セクター
ゾーン名 ロケーション 主な誘致セクター
Aゾーン:
ジョホールバル市
ジョホールバル市中心部 ビジネスサービス、デジタル経済、医療
Bゾーン:
イスカンダル・プテリ
西部の新興都市 製造、ビジネスサービス、デジタル経済、教育、医療、観光
Cゾーン:
タンジュン・ペラパス&タンジュン・ビン
西側沿岸のコンテナ港周辺 製造、エネルギー、物流
Dゾーン:
パシル・グダン
東部の主要工業地帯 製造、エネルギー、物流
Eゾーン:
セナイースクダイ
北部セナイ空港周辺 製造、デジタル経済、教育、物流、観光
Fゾーン:
セデナック
北部のハイテク団地 製造、ビジネスサービス、デジタル経済、教育、エネルギー、食料安全保障、医療、物流、観光
Gゾーン:
フォレストシティ
南西部沿岸の人工島 金融
Hゾーン:
ペンゲラン
南東部の石油精製・化学コンプレックス 製造、エネルギー、物流
Iゾーン:
デサル
東側沿岸のリゾート地 教育、食料安全保障、医療、観光

JS-SEZで提供される主な優遇税制は?

JS-SEZでは、ゾーンや事業に応じてそれぞれ異なる優遇税制が用意されています。代表的な優遇税制が法人税の軽減措置で、これはAIや量子コンピューティング、医療機器、航空宇宙製造、グローバルサービス拠点(地域統括、本社機能、財務など)といった特定の高度分野に新規投資を行う企業に対し、通常の法人税率(24%)よりも大幅に低い軽減税率5%が最大15年間適用されるものとなります。

一方、JS-SEZでは個人に対する優遇税制も用意されています。一定の学歴や専門経験を有し、JS-SEZ内の対象企業・セクターでの勤務を通じて月額20,000リンギ(約75万4,000円)を得ているナレッジワーカー(知識労働者)であれば、マレーシア人・外国人を問わず通常30%の個人所得税を、10年間に渡って15%に軽減する優遇措置が適用されます。

主な優遇税制
ゾーン 事業 優遇税制
A、Bゾーン グローバルサービスハブ ・法人税の軽減税率5%(最大15年)
・商業用不動産の購入時の印紙税40%免除

≪要件≫
年間運営費5,000万リンギ以上、10社以上のネットワーク会社にサービスを提供、年間売上高5億リンギ以上、現地銀行システムへの外貨インフロー、高付加価値職位(月給10,000リンギ以上)の50%をマレーシア人で構成

Cゾーン スマート物流 ・投資税額控除100%(最大5年)

≪要件≫
設備投資額5億リンギ以上、倉庫複合施設の建築面積5万3,588㎡以上、国家戦略「インダストリー4.0」に基づく3つ以上のテクノロジーを保有、産業建築システム(IBS)のスコアを達成する最新建築技術の採用、従業員の80%以上をマレーシア人で構成、高付加価値職位の50%をマレーシア人で構成

Dゾーン 製造
(下流特殊化学品)
・Tier 1:法人税の軽減税率5%または投資税額控除100%(最大10年)
・Tier 2:法人税の軽減税率10%または投資税額控除60%(最大10年)

≪要件≫
新設または既存の会社で、資本金250万リンギ以上

Eゾーン 製造
(航空宇宙MROサービス)
・新設会社で10億リンギ以上の投資:法人税の軽減税率5%(最大15年)
・新設会社で5~10億リンギ未満の投資:法人税の軽減税率5%(最大10年)
・既存の会社:投資税額控除100%(最大5年)

≪要件≫
既存の会社の場合は、新規拡張で5億リンギ以上の投資

Fゾーン 製造
(AI・量子コンピューティング、医療機器、医薬品)
・新設会社で10億リンギ以上の投資:法人税の軽減税率5%(最大15年)
・新設会社で5~10億リンギ未満の投資:法人税の軽減税率5%(最大10年)
・既存の会社:投資税額控除100%(最大5年)

≪要件≫
既存の会社の場合は、新規拡張で5億リンギ以上の投資

Gゾーン 総合観光プロジェクト ・投資税額控除100%(最大5年)

≪要件≫
新規投資であること、資本金250万リンギ以上、設備投資額5億リンギ以上、80室以上のホテルと1つ以上の観光アトラクションで構成されること

全エリア ・商業ビルなどの改修にかかる費用の加速度償却
・ナレッジワーカーの個人所得税率の軽減税率15%(最大10年)

JS-SEZの企業誘致状況は?

JS-SEZでは、投資家向けのワンストップ窓口となる「マレーシア投資促進センタージョホール支所(IMFC-J)」を解説し、認可手続きの支援を行っています。また、邦銀大手の「三井住友銀行」「みずほ銀行」、マレーシアの銀行大手「メイバンク」「CIMBグループ」、米銀行大手「バンク・オブ・アメリカ」、英金融大手「HSBC」、中国の証券大手「中国銀河国際」などが、戦略的パートナーとして参画し、JS-SEZに進出する企業への金融面での支援等を行っています。

まだ始動から1年未満ではあるものの、シンガポールのガン・キムヨン副首相によると、2025年10月時点でシンガポール企業からのJS-SEZへの投資額(コミットメントベース)は55億Sドル(約6,600億円)超に上っているようです。また、具体的な投資事例も少しずつ明らかになってきています。

明らかになっている企業誘致の一例
企業名 国籍 投資内容
ネオジャパン 日本 デジタル経済の推進拠点となる「SEA CoE」の開設
トムソン・メディカル・グループ シンガポール ジョホールバル市中心部で55億Sドル規模の医療複合施設の開発
アルパイン・リニューアブルズ&エディブル・オイルズ シンガポール バイオ燃料精製施設の開設
アーキセン シンガポール セデナックで200エーカー規模の最先端農業拠点の開設

不動産市場への影響は?

ジョホール州ではイスカンダル計画の下で急速に都市開発が進み、高層コンドミニアムが次々と完成した一方、都市開発偏重で企業誘致が思うように進まなかったため、住宅在庫が大量に積み上がった苦い経験があります。

ただ、JS-SEZはジョホール州とシンガポールの経済圏化を加速させるため、同州内への企業誘致や高スキル人材の雇用に特化して進められるものであるため、不動産需要にはより直接的にポジティブな効果が期待できます。また、2027年1月にジョホール州とシンガポールの経済圏化には不可欠な越境鉄道「RTSリンク」が開通予定であることも、不動産市場には追い風となるでしょう。

現在、両国・地域間を陸路で移動するには、2本の連絡橋「コーズウェイ」か「セカンドリンク」を利用する必要がありますが、厳しい渋滞のため、通勤時間や週末には越境に2時間以上を要することも珍しくありません。しかし、RTSリンクが開通すると、ジョホールバル市中心部「ブキ・チャガー駅」とシンガポール北部「ウッドランズ・ノース駅」の間を約5分で移動できるようになります。

現在のジョホール州のコンドミニアム価格や賃料は、シンガポールのコンドミニアムの5分の1~7分の1程度です。そのため、RTSリンクの開通によって、すでにシンガポールで働いている人の中でも、生活コストが非常に高いシンガポールからジョホール州に住まいを移すという行動は、より現実的な選択肢になっていくのではないかと思います。

すでにJS-SEZの効果は表れ始めており、計画が公になった2023年以降、それまで供給過剰で長い間停滞していたジョホール州の不動産市場が活性化。特にシンガポール人からの関心が高いようで、コンドミニアム価格は再び上昇トレンドに回帰し始めています。また、コロナ禍も相まって2021年には63%にまで達した住宅在庫率も、足元では23%程度まで落ち着いてきています。

シンガポールとは違って、ジョホール州にはまだ開発可能な土地がたくさんあるため、急激な価格上昇というのは抑制されると思いますが、両国・地域の経済圏化が進めば進むほど不動産価格のアービトラージが働きやすく、現在5分の1~7分の1程度ある価格差は少しずつ縮小していくものと考えています。

マレーシアのコンドミニアム価格

参考物件

Skypark Kepler(スカイパーク・ケプラー)
スカイパーク・ケプラーの外観 スカイパーク・ケプラーのリビング

「Skypark Kepler(スカイパーク・ケプラー)」は、「JS-SEZ(ジョホール・シンガポール経済特区)」の開設で盛り上がるマレーシア南部ジョホールバル市中心部の沿岸で進む、大規模ウォーターフロント開発エリア「リド・ウォーターフロント・ブールバード」の一角に2030年に誕生を予定している、2棟構成、54階建て、全1,596戸からなる高級ブランドレジデンスです。

⇒「スカイパーク・ケプラー」物件詳細はこちら

間取り 販売価格 専有面積
1Bed 約3,163万円~ 43m²~
2Bed 約4,501万円~ 62m²~

※物件価格は1RM=37.70円換算で表示しています。

Arden Serviced Residence(アーデン・サービス・レジデンス)
アーデン・サービス・レジデンスの外観 アーデン・サービス・レジデンスのリビング

「Arden Serviced Residence(アーデン・サービス・レジデンス)」は、マレーシア南部ジョホール州の経済中心地「ジョホールバル市」にて進む大型複合開発プロジェクト「ワン・ブキット・セニョム」の一環として、2030年に誕生を予定している、68階建て、全618戸の超高層・高級サービスレジデンスです。

⇒「アーデン・サービス・レジデンス」物件詳細はこちら

間取り 販売価格 専有面積
2Bed 約4,147万円~ 74m²~
3Bed 約6,032万円~ 106m²~

※物件価格は1RM=37.70円換算で表示しています。

マレーシア不動産についての最新情報

マレーシア不動産についての最新情報は下記リンク先よりご確認ください。

お問い合わせ用Webフォーム、フリーダイヤル(0120-978-055)、又はE-mailにてお気軽にお問い合わせください。(土日祝を除く毎日10:00~19:00)

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投稿更新日:2025年12月04日